「燃えよ剣」から学ぶ組織論 (5) ~ 組織の有り方は目的に依存する

「燃えよ剣」から学ぶ組織論。ついに5回目となります。とりあえず、ここで最終回にしたいと思います。最終回は、新選組の目的と組織的特徴を考察します。幕府派に立つか、反幕に立つかで、言葉使いが若干たってきますが、この「燃えよ剣」は幕府派にたって書いている本なので、ここでもその立場で書きます。

新選組の目的

新選組の存在意義、それは、京阪における治安維持にあります。新選組が結成され、芹沢/新見らが粛清されてからしばらくたってから、近藤は隊士一同に対して次の様にいいます。

「大公儀の威武をもって、浮浪を一掃し、かしこきことながら、禁闕のご静安をおまもりする。いよいよ今日から、大城の大路小路が新選組の戦場であると心得られたい。」

つまり、江戸幕府の幕下となり、京阪にいる不穏分子(攘夷反幕派)を取り除き、朝廷に平和をもたらすということがこの時点で新選組の目的/存在意義となります。この目的は大政奉還まで続きます。これにより、新選組の組織的特徴が定められていくことになります。

厳しい規律

新選組には局中法度書という厳しい規律があります。具体的には以下のように定められております。

一、士道に背くまじきこと。一、局を脱することを許さず。いずれも、罰則は、切腹である。第三条は「勝手に金策すべからず」。第四条は「勝手に訴訟(外部の)取り扱うべからず」。第五条は「私の闘争を許さず。」右条々相背き候者は切腹申しつくべく候也。

と非常に厳しい。新選組の目的は、京阪を戦場として、戦士として不穏分子と戦うこと、そして戦場から逃げ出さないようにすること。それを担保するのが、この局中法度書。これを厳格に施行することにより、隊士は逃げ場なく、敵とまさに死に物狂いで向かいあうことが求められます。

組織構造

新選組の組織は、局長、副長、助勤、隊士という序列で構成されており、それに監察という役を置きます。局長は当初は近藤、芹沢、新見で構成されておりますが、のちには近藤一人となります。副長も当初は土方、山南ですが、のちに土方一人となります。そして、助勤は各小隊の隊長といったところです。監察は偵察が主で副長のラインに属します。

ここでの、ポイントは指揮命令系統の一元化/情報の流れの一元化が図られていること。指示は局長→副長→助勤と流れ、情報は監察→副長→局長と流れます。いずれにしろ、副長のところから具体的な命令がでるとともに、下からの情報をとりまとめます。そのため、副長は土方一人で独占し、同格の山南敬助を総長、伊藤甲子太郎を参謀に祭り上げて、ラインからははずしてしまいます。

土方がこのように一元的に指示/情報の流れをコントロールすることを好むエピソードを。これは、山南が脱退して、それを監察の山崎が土方に報告したときのこと。

が、歳三は、つとめて冷静にいった。「山崎君。近藤さんの休息所への使いは行ったでしょうな。」「まだです。」「なぜ、早くいかない。」「私が、ただいまから参ります。まず土方先生にと思ったものですから。」(利口な男だ)順をみださない。副長職である歳三の職務的な感情をよく心得ていた。

このように、指揮命令系統/情報の流れを一元化することにより、組織は局長/副長の思うように動くようになります。随時、戦場となっている状況では、このような組織対応が求められます。

まとめ

現代の組織において、このような組織は存在しえないと思います。もちろん、時代背景というのはありますが、それ以外に鮮烈な目的が組織のあり方を規定している、ということもあげられるでしょう。そのため、現代のような会社組織ではなく、軍隊型組織となっているといえるでしょう。組織構造を考えるにあたっては、その組織がどのような目的を奉じているか、を意識することが大切でしょう。

最後に

今回でこの連載を終わります。「燃えよ剣」、ここでは組織論的な観点からとりあげましたが、その他、ライバル七里研之助との因縁、様々な剣劇のシーン、近藤/沖田との友情、山南/伊藤との反目、お雪との恋、大政奉還の後の虚無、東北/蝦夷行き等等、上下2巻構成のわりには、読みどころは多々あるので、是非に手に取っていただければ、と思います。

 

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